2023.08.31 IP無線機

IP無線機とは?通話の仕組みや使い方、最新機種を紹介

現在業務用無線機と呼ばれている機器にはさまざまな種類があります。

デジタル無線機、IP無線機、MCA無線機、インカムなどがありますが、それぞれ特徴があります。

皆さんの業務に最適な業務用無線機を選ぶためには、その特徴をしっかりと理解することが必要です。

この記事ではIP無線機とはどのような特徴を持った無線機なのかを詳しく解説します。

 

目次

IP無線機とは

IP無線機の定義と仕組み

IP無線機とは、携帯電話の通信網(LTE・4Gなど)を使って、音声通話や位置情報のやり取りができる業務用の無線通信機器です。
「IP」とは「Internet Protocol(インターネット通信のルール)」の略で、スマートフォンなどと同じく音声をデジタル信号に変換し、インターネット回線経由で送受信します。

従来の無線機(MCA無線や簡易無線など)は、限られたエリアでの通信が主流で、基地局の設置や免許申請が必要なことも多く、運用の自由度に制約がありました。
それに対しIP無線機は、基地局や電波免許が不要で、SIMカードさえあれば全国どこでも通話が可能。つまり、「スマホのような感覚で使える無線機」とも言えます。

どんな場面で使われている?

IP無線機の導入が進んでいる背景には、働き方の変化・災害対策の強化・複数拠点の同時連携ニーズの高まりがあります。以下のようなシーンで活躍しています。

  • 建設・土木業界:現場監督と複数班の作業者がリアルタイムで通話、図面や位置情報も連携

  • トラック・バス運行管理:車両位置をGPSで把握しつつ、運行指示や状況報告を即座にやり取り

  • イベント・施設警備:複数拠点間の即時連絡、災害やトラブル時の初動対応

  • 介護・福祉現場:訪問スタッフが緊急時や情報共有で通話、動態管理にも活用

  • 自治体:大規模自然災害時の災害対策本部運営、避難所運営など

これまで「距離が離れていては連絡が取りづらい」とされていた場面でも、スマホの通話品質と無線機のグループ通話機能を両立でき、音声以外の画像やテキストの送受信も可能にしたのがIP無線機です。

 

IP無線機の特徴とメリット

全国どこでも通話できる広域性

IP無線機の最大の強みは、全国どこでも通話ができる点です。
従来の無線機は、ほとんどの場合一定の通信距離内でしか使えず、エリア外の作業所や支店とのやり取りには電話や別の手段を併用する必要がありました。

しかしIP無線機は、携帯電話と同じ通信網(LTE・4Gなど)を使うため、キャリアの電波が届く限りどこからでも通信が可能です。東京本社と地方の現場、運転中のトラックと運行管理事務所、離れた警備拠点間の通話など、あらゆる場所とスムーズにつながります。

GPSでリアルタイム位置情報、履歴を把握できる

多くのIP無線機にはGPS機能が搭載されており、各端末の位置をリアルタイムで地図上に表示することができます。

この機能は以下のような業務で特に有効です。

  • トラックやバスの現在地を把握し、的確な配車指示や運行に関する問い合わせ対応を行う

  • 災害復旧時、現場スタッフの位置を可視化して、緊急時の応援体制を即時判断

  • 移動履歴をログとして記録し、業務の進捗管理や安全対策に活用

「誰が」「どこで」「何をしているか」を即座に把握できることは、チーム全体の意思決定スピードを大きく高めます。

意思決定のスピード向上は業務効率化に直結する重要な要素です。

画像動画の送受信、テキストチャットなど通話以外の機能が豊富

IP無線機は、単なる音声通話だけでなく、業務に役立つ多彩な機能を備えているのが大きな特長です。代表的な機能には以下のようなものがあります。

  • 通話録音:すべての会話を自動で録音し、後から内容を確認できる

  • 画像、動画の送受信:音声では伝えられない現場の様子を画像、動画で確認・記録

  • チャット送信:テキストや写真でのやり取りも可能

  • アラート通知:緊急時にはワンタッチで管理者へSOS信号を送信

これらの機能により、「状況把握」「証拠の記録」「非音声での連携」など、幅広いシーンで実用性を発揮します。
また、これらのデータはクラウドに保存されるタイプも多く、後からの検索・再確認・レポート作成にも役立ちます。

インターネットベースだからこその柔軟性と進化性

IP無線機は、インターネット回線を使ったクラウド型の通信サービスであるため、導入後も柔軟に拡張・進化させられる点が大きな特徴です。以下のような観点で、従来の無線機にはないメリットがあります。

クラウド型サービスなので、新しい端末を追加する際も物理的な配線工事や基地局の増設は不要。
設定もオンラインで完了するため、数台から始めて、必要に応じて柔軟に拡張できます。

またIP無線機のソフトウェアやアプリケーションは定期的にアップデートされ、常に最新の機能を利用することができます。

これにより、導入時点では想定していなかったニーズにも、後から対応できる柔軟性を備えています。

このように「初期導入のしやすさ」だけでなく、「運用フェーズでの成長対応力」が高いのも、IP無線機が選ばれる理由のひとつです。

IP無線機のデメリットと注意点

キャリアのインフラに依存している(回線障害リスク)

IP無線機は、携帯電話と同じようにキャリアの通信インフラを使って通信するため、通信障害や電波圏外では使用できないというリスクがあります。

たとえば、大規模災害時や基地局トラブルなどでキャリア回線がダウンすると、IP無線機も通話不能に陥る可能性があります

これに対しては以下のような対策が有効です:

  • 複数キャリアに対応したSIM(マルチプロファイルSIM)を選ぶ

  • サブ手段(衛星電話・予備の通話端末など)を併用する

  • オフライン時も対応できる非常用連絡マニュアルを整備する

「IP無線=完璧」ではなく、特性を理解しておくことが安全な運用のカギになります。

ランニングコストが発生する

IP無線機は、通信キャリアのネットワークを使用するため、月額の通信料やクラウド利用料が発生します。
また、専用アプリを使う場合も、利用ライセンス費用が必要なケースがあります。

一般的な費用項目は以下の通りです:

  • サービス利用料金(月額)

  • オプション料金(月額)

  • 専用機の端末代やメンテナンスコスト

導入前には、初期費用だけでなく運用コストの見積もりも重要です。
一方で、電話代や移動時間の削減効果を考慮すれば、トータルコストは抑えられるケースも多いため、費用対効果をしっかりと把握することが大切です。

通話品質が環境に左右される場合もある

IP無線機の通話品質は、基本的にキャリア回線を利用しているため安定していますが、以下のようなケースでは品質が低下することもあります

  • 建物の地下・山間部など電波が届きにくい場所

  • 通信混雑時間帯の帯域制限や遅延

  • 通話アプリの仕様やハードウェア性能の影響

これを防ぐためには、

  • 事前に利用予定エリアの通信状況を確認する

  • 業務利用に最適化がされている業務用モデルを選ぶ

  • 複数回線(ドコモ+auなど)の切替機能付きモデルを選定する

といった工夫が求められます。

アプリ版は便利だが、業務用途には不向きなケースも

IP無線には、「専用機タイプ」と「スマートフォンにアプリを入れて使うタイプ」の2種類があります。
アプリ版はコストが安く導入のハードルが低い一方で、業務用として本格的に使うには不便やリスクがあることも事前に理解しておくべきです。

代表的なデメリットは以下の通りです:

  • バッテリー消耗が激しい可能性がある
     常時バックグラウンドでアプリが動作するため、通常のスマホ使用よりも電池の減りが早くなります。

  • 誤操作・誤通知が起きやすい
     他の業務アプリや通知と混在し、緊急連絡や業務指示を見逃す可能性があります。

  • 利用者のITリテラシーに左右されやすい
     「アプリを強制終了してしまった」「音が出ない」など、トラブルが現場で起きがちです。

  • 端末故障や個人端末との混在で管理が煩雑
     私物スマホと併用する場合、情報漏洩や管理責任が不明瞭になるリスクも。

こうした背景から、業務用途においては「専用機タイプ」のIP無線機が推奨されます
専用機であれば、バッテリー容量も大きく、誤操作防止の物理ボタンを搭載していたり、防水・防塵性能も高いため、現場利用に特化した安心設計となっています。

以上が、IP無線機の主なデメリットとその対策です。
便利な分、リスクもあるということを把握しておくことで、導入後のトラブルも未然に防げるはずです。

 

IP無線機の活用シーン

IP無線機は、単なる通話手段にとどまらず、業務の効率化、安全管理、緊急対応、災害対策などを支えるインフラとして、さまざまな現場で活躍しています。
ここでは、主要な業種・業態別に、IP無線機の活用シーンとメリットを具体的に紹介します。

建設・土木・産廃:指示の即時伝達、安全確認にも

建設や産廃現場では、鳶工・重機オペレーター・監督者・搬入業者など、多数の関係者が同時並行で作業を行っています。
これらのメンバー間で、業務に関する情報を迅速に共有するには、片手で操作できる無線機による即時通話がとても効果的です。

また、録音や録画機能付きのIP無線機を使えば、事故発生時の記録保存や、施工記録の簡易なログ化にもつながり、安全管理・工程管理の一元化が可能になります。

運輸・物流:運行中でも安全につながる強さ

長距離トラックや貸切バスなどでは、運行中の車両と運行管理者とのリアルタイムな連携が業務の中核です。
IP無線機を搭載すれば、以下のような連携が可能になります:

  • 運行中の位置をGPSで常時把握し、遅延や事故発生時の初動対応が迅速に

  • 通話でそのまま指示を出しつつ、報告・確認・再指示のループを最短化

  • 災害や渋滞などのルート変更にも即対応でき、業務の安定性が向上

スマホを使った電話連絡よりも、発信操作が早く、全体通話ができるIP無線の方が運行管理に向いています。

イベント・施設警備:現場状況の共有が安全確保の鍵に

大規模なイベントや商業施設などでは、突発的な来場者トラブル・不審物対応・急病人対応などにおいて「即通話」が必須です。
IP無線機であれば、以下のような運用が可能です:

  • 現場スタッフ全体への一斉通話での状況共有

  • 記録のための録音・録画機能を備えた端末で証拠保存

  • 複数エリア・役割(入口・搬入口・本部など)にグループ分けして通話運用

スマホによる個別連絡では対応が遅れがちな中、無線のスピード感とIP通信の柔軟性が両立する点が評価されています。

自治体・防災:平時から災害時まで各フェーズの情報共有をサポート

自治体における災害対策業務では、固定型の同報系防災無線に加え、移動系防災無線をいかに最適化するかが重要課題です。
IP無線機は、その代替・補完手段として多くの自治体で導入が進んでいます。

具体的な活用場面:

  • 災害発生時に、避難所・対策本部・支援車両との連絡手段として利用

  • 避難誘導スタッフが一斉に情報を共有し、現場の判断を即時連携

  • 画像、映像付きで被害状況を報告し、応援要請や指示伝達が迅速に

  • 通信キャリアが生きている限り従来の防災無線よりも柔軟な運用が可能

また、日常時にも訓練や自治体イベントで活用されており、災害専用ではなく平時から役立つ無線機として再評価されています。

医療・福祉・訪問介護:スタッフの安全と業務効率の両立

医療や介護事業においては送迎を担当する車両と受け入れ側の事業所や施設の連携が欠かせません。
IP無線機であれば、以下のような活用が可能です:

  • 「今どこにいるか」が事業所から常に確認できるGPS追跡

  • 手がふさがっていても物理ボタン1つで通話できる安心感

  • 万が一のトラブル時にもグループ内で即応体制がとれる

  • LINEやメールでは代替できない、リアルタイム性のある業務連絡

車両の動態履歴が残るため、患者や利用者対応後の報告資料にも活用できる重要なデータを取得することができるのもメリットの一つです。

 

IP無線機を選ぶ時のポイント

IP無線機は多くのメーカーやサービスが存在し、それぞれ機能や特徴が異なります。
自社に最適な機種・サービスを選ぶには、以下の5つの観点を整理しておくことが重要です。

① 通信エリアを確認する

IP無線機はキャリアの通信網を利用するため、基本的に全国どこでも通話可能ですが、利用する地域によっては電波が弱い・圏外になるケースもあります。

選定時には:

「どこでも使える」は大きなメリットですが、実際の使用環境でストレスなく使えるかを検証することが重要です。

② 専用機 or アプリ型?業務内容に合ったタイプを選ぶ

IP無線機には、以下の2タイプがあります。

導入コスト重視であればアプリ型が手軽ですが、長時間の利用や誤操作防止、耐久性を求める現場には専用機がおすすめです。
スタッフのITリテラシーや使用環境に応じて、ハイブリッド導入(併用)も検討しましょう。

③ GPS、画像動画やテキストの送受信などの機能が必要かを明確にする

IP無線機は、通話以外にもさまざまな業務支援機能を備えています。
選ぶ際には、自社の業務に必要な機能が含まれているかを確認しましょう。

代表的な機能:

  • GPS動態管理:車両や作業員の位置をリアルタイムで確認

  • 通話録音:業務指示の聞き逃し防止や後日の確認や証拠保存に便利

  • 画像・動画送信:音声では伝わらない状況を正確に共有

  • チャット送信:何度も見返す必要がある連絡はテキストで送信可能
  • SOS通知:ボタンひとつで緊急アラートを管理者へ発信

あったら便利ではなく、現場で本当に使う機能に絞って選ぶことがコスト・運用面で最適化を図るポイントになります。

④ 台数や利用人数に応じたコスト設計

IP無線機は、初期費用よりも月額コストや管理費用の方が重要になってきます。

主な費用項目:

  • 通信料

  • 基本サービス利用料

  • オプション機能利用料

  • 専用端末の保守・交換コスト

「10台で月いくら」「全社導入で年いくら」というようなトータルコスト感を持って比較しましょう。

⑤ 導入後の運用体制と拡張性も確認

IP無線機は、導入して終わりではありません。運用フェーズでの使いやすさ・管理のしやすさが業務効率に直結します。

確認しておきたいポイント:

  • サポート体制(トラブル時対応、初期設定支援など)

  • 管理者向け機能の有無と操作性(グループ設定、履歴確認など)

  • 台数や拠点が増えた際のスムーズな拡張性

クラウド型であるIP無線機は、運用を見据えて柔軟に拡張できるかが成功のカギとなります。

 

おすすめのIP無線機

最後におすすめのIP無線機を紹介したいと思います。

ハンディ型IP無線機 IM-560【モバイルクリエイト】

ハンディ型IP無線機IM-560はモバイルクリエイトから発売された最新のIP無線機です。

旧機種のIM-550と比較して画面サイズが大きくなり、テキストや画像・動画などが扱いやすくなりました。

また、Googleプレイストアにも対応したことで他のアプリと組み合わせて利用することができ、端末の一本化による業務効率の向上が期待できる端末となっています。

また、モバイルクリエイトのハンディ型IP無線機は動態管理システム、チャット、画像・動画の送受信がすべて標準機能となっており無料で利用することができます。

車載型IP無線機 IM-860/861【モバイルクリエイト】

車載型IP無線機IM-860/861はモバイルクリエイトから発売されています。こちらの製品の特長は取り付け工事なしで車載型IP無線機として利用を開始できる点です。

USBまたはシガーソケットから給電することができるため、ケーブルを差し込むだけで利用が開始できます。

運送業や配送業のような車両の入れ替わりが激しい業種では無線機を簡単に取り付け、取り外しできることが大きなメリットになります。

またIM-861であればケーブルを抜き差しすることでハンディ機として車外でも活用することができます。

もちろんこちらも動態管理システムが無料で使えますので、車両の位置情報をリアルタイムで確認することが可能です。

IP501H【アイコム】

IP501Hはアイコムから発売されているハンディ型IP無線機です。

業務用無線業界で有名はアイコム社の無線機でさまざまなところで利用されています。

そのため、IP無線同士だけでなく特小無線などとも通信することができるシステムがあります。

801KW【Softbank】

801KWはSoftBankから発売されているハンディ型IP無線機です。

IP68相当の防水、防塵機能を有しており高い耐久性を誇っています。また、災害時の緊急速報メール受信にも対応しており、災害対策としての活用もされているようです。

 

この記事はIP無線機とはどんなものなのかを詳しく解説しました。

最新の技術を活用した無線機で、今後もさまざまな分野で活用が進むでしょう。

IP無線機の導入を検討中の方は、メリット・デメリットについて正しく理解して最適な機種を選んでみてください。