2024.02.27 BCP対策

医療機関が災害時の通信手段を用意したほうがいい理由

医療機関の災害対策として、非常時でも使用できる通信手段の確保は重要です。大きな地震や豪雨によって停電が発生した場合には、電話などの通信機器が使用できないことも考えられます。医療機関の災害対策として、非常用の通信手段を確保しておけば、さまざまなシチュエーションで情報収集や外部への連絡ができ、スムーズな災害対応や医療行為の継続が可能です。

ただ、通信手段の活用方法は、災害発生後のフェーズによって、目的と用途が変化します。つまり通信手段をどのように活用するのか、どのようなシチュエーションで使用するのかを把握し、目的や用途にあった通信手段を確保することが大切です。

そこで、フェーズ別にどのように通信手段を利用するのかを見ていきましょう。

通信手段の用途は災害発生後のフェーズによって変化する

 

予期せずに発生する地震など、災害による影響は広範囲で深刻です。医療機関は、そのような状況であっても生命を救うという重要な役割を求められています。
商店や一般企業などのように、休業とすることが難しく、医療を提供し続けなければならないのが、医療機関の使命だといえるでしょう。

そのような状況だからこそ、欠かせないツールとなるのがIP無線機などの通信手段だといえます。
災害時には、情報の伝達や共有が難しくなることが想定されますが、適切な医療の提供や人命救助を維持していくためには、情報の共有と関係機関との連絡調整手段の確保が必要不可欠だからです。

医療機関から発信したい情報、共有したい情報は、外来・入院患者さんの安否、職員の安否、医療機関の被害状況、ライフライン状況、医薬品や医療物資と食料の過不足、患者さんの転院・退院調整、救急患者さんの受け入れ可否、支援や応援に関することなど、多岐にわたります。
そのため医療機関では、災害時の一斉連絡を迅速に行えるIP無線機などの通信手段を確保しておくことが重要です。

ただ、通信手段の活用方法は、災害発生後のフェーズによって異なります。災害発生直後のフェーズでは、災害対策本部にて被害状況の把握を行い、今後の方針を決定するための判断材料に必要な情報収集のために活用できる通信手段を用意します。

また災害発生24時間後以降は、支援要請や協力体制確保などの要望伝達の連絡手段として通信手段を利用します。水や食料、薬品や医療物資の供給依頼を行ったり、医師や看護師、透析設備等の協力要請をしたりも考えられます。
そのため確保しておく通信手段は、状況の変化にも対応できる通信機器であること、誰もが使えるわかりやすい操作性を備えていることが望ましいでしょう。

災害発生直後のフェーズでは情報収集のために活用する

災害発生直後のフェーズでは、災害対策本部を立ち上げ被害状況の把握に努めることが重要です。そのため、このフェーズで求められる通信手段の役割は、医療機関内の被害状況や患者さんの状況を関係機関と共有することがメインとなります。併せて、関係機関より災害の状況について情報提供を受けたり、判断を仰いだりすることができれば、災害対策本部の今後の方針を決定するために役立つでしょう。

災害対策本部にて被害状況の把握

災害発生によって立ち上げた災害対策本部では、医療機関内や周囲の被害状況の把握に努めます。

医療機関は、把握した院内の入院患者数や外来患者数、勤務職員数、重症度の高い患者数、ライフライン状況などをEMIS(広域災害救急医療情報システム)に入力しなければなりません。

このEMISは行政やDMAT隊が共有し、入力された情報から支援する必要性の把握や優先順位を決定します。

そのため、被害がなくともその旨を入力することで、支援を必要とする医療機関に適切に資源を用いることに繋がるのです。災害発生後、EMIS未入力の場合には、都道府県や市町などの行政、保健所から、EMIS入力依頼の連絡があります。

もしEMIS入力ができないような場合であっても、なんらかの通信手段を利用して、把握している状況を都道府県や市町、保健所に伝達し、代行入力してもらうことが可能です。

今後の方針を決定するための判断材料の収集

災害時を想定した通信手段を備えていることによって、EMISの代行入力以外にも有効活用することができます。関係機関どうしの通話のやり取りを聞き取ることができ、さまざまな情報を集めることが可能です。

災害対策本部を立ち上げても、まったく情報がなければうまく機能しません。災害発生直後のフェーズでは、情報が少なかったり、情報が錯綜してしまったりするものなので、情報が届くのを待つばかりでなく、IP無線などの1対多数の通話を得意とする通信手段を使用して多く情報を集め、周囲の状況を把握することが、今後の方針を決定するためにも重要です。

災害発生から24時間後のフェーズでは外部との通信手段の確保

災害発生から24時間、いわゆる1日目のフェーズでは、災害時を想定した通信手段を備えているかそうでないかで大きく対応が変わってしまいます。

なぜなら災害発生後から24時間のフェーズは、外部の関係機関との連絡がとても重要だからです。災害直後の混乱した状態から、少しずつ事態の把握が進み、支援や応援の体制が構築され始めていきます。

そのフェーズで関係機関と連絡が取れていれば、さまざまな支援から孤立してしまうことを防げます。

組織をまたいだ通信手段としてIP無線機のようなグループ通話を得意とした通信手段を関係各所に備えておくことで効率化を期待できます。行政や災害拠点病院などから物理的な距離がある医療機関は、災害対策の優先順位上位にIP無線機などの通信手段の確保を位置づけることも検討しましょう。

保健所や行政の災害対策本部への状況報告

医療機関は、災害対策本部を立ち上げたことや対応状況について、保健所や行政の災害対策本部に対して報告を行う責任があります。

なぜ報告が必要かというと、この報告によって保健所は管内医療機関の災害対策の進行状況の把握ができるからです。すなわち報告によって情報が集まるからこそ、支援が必要な状況を精査でき、優先順位付けや必要な支援を届けることができます。

保健所や行政の災害対策本部に報告すべき情報は、建物の損壊などの被害状況、電気や水道などのインフラ設備の状況など、医療機関として医療の提供が存続可能かを判断できる情報が主なものになります。そこに加えて、職員の安否情報や院内の医療従事者数なども診療に欠かせないので重要な情報です。

他の医療機関の状況把握や情報交換

災害発生時には、普段通りの診療が難しいこともあるでしょう。しかしこれはどの医療機関でも同様に起こっていることです。そんな時にでもIP無線機など通信手段を活用し外部期間の情報を入手できる体制が確保ができていれば、他の医療機関の状況を把握すること、被災状況などの情報交換もできます。

情報交換や情報共有が可能であれば、行政や保健所の支援を待つのではなく、各医療機関が連携を取ることも可能です。たとえば、災害用として病院にはある程度の医療資源が確保されていますが、クリニックでは災害用の備えまで対応できておらず、診療を維持することが難しいかもしれません。

しかし、非常時の支援としてクリニックの医師や看護師に依頼して、病院に応援に駆けつけてもらえたらどうでしょう。クリニックの患者さんも来院すれば診療を受けることができ、病院側は医師や看護師に診療を応援してもらえます。

お互いの弱点を補う連携が図れるようにしておくことが大切です。その関係を構築するきっかけとして、IP無線などの通信訓練を協力して実施するなど、連絡手段が連携を図る役割を担えることもあります。

災害発生24時間後以降は支援要請や協力体制確保などの要望伝達の連絡手段

医療機関が災害用に確保している通信手段が威力を発揮するのは災害発生24時間以降のフェーズです。スマートフォンでの外線通話や固定電話がつながらない状況での重要な通信ツールといえます。

水や食料、医薬品や医療物資の供給依頼

医療機関では、非常用として水や食料、医薬品や医療物資を備蓄しています。しかしながら、コストやスペース面などを考慮して、1日から3日対応できる量の備蓄です。しかも備蓄分は、入院患者さん用として想定していることが多く、外来患者さんが帰宅できずに病院内に留まった場合や医療従事者に割り当てた場合には、想定よりも短期間のうちになくなってしまいます。

水がなくなってしまうと脱水症状を起こす患者さんや医薬品がなくなると健康状態を維持できない患者さんが発生する可能性が想定されます。

そんな時に通信手段を駆使し、水や食料、医薬品や医療物資の確保に向けて、早急な対応を行政に要請したり、関係機関や近隣の医療機関と協力したりすることが可能です。そのためには、各医療機関の防災担当や栄養課、薬剤科が協力体制を取れるようなコミュニケーションを図っておくと良いでしょう。

医師や看護師、人工透析設備等の協力

医療機関では災害時を想定しさまざまな備えをしています。それでも医師不足や看護師不足、人工透析装置などの医療機器の不具合への対応は難しく、医療機関の災害時の大きな課題です。

具体的には、ライフラインも正常で医薬品や医療物資が揃っていても、医師や看護師といった医療従事者不足となると、医療機関としてのミスマッチが発生します。また人工透析装置が、水道や電力の供給停止、揺れによる破損で稼働できない状況となると、透析患者さんにとっては命にかかわる問題です。この場合も通信手段があれば、行政へDMAT隊の派遣や給水車を要請することができます。

また近隣クリニックや人工透析施設へ協力要請することも通信手段があれば可能です。透析患者さんに近隣の人工透析施設へ向かってもらい、患者さんの人工透析に関する情報を通信手段にて伝達することで、人工透析を受けられて患者さんのリスク回避できます。

災害時に備えて、このような協力体制を図ったり、通信手段を使った連携訓練を実施したり、関係を密にしておくこともおすすめです。

通信手段をいかに確保できるかが迅速な対応に欠かせない

災害時でも使用できるIP無線などの通信手段を医療機関が確保しておく理由とその重要性について解説しました。災害時には、通信手段を確保しておくことが迅速な対応には欠かせません。情報収集や外部への連絡がスムーズになり、医療の提供が継続でき、地域のニーズにこたえることにもつながります。

IP無線などの通信手段をどのように活用するのか、どのようなシチュエーションで使用するのかといったことを把握し、想定される目的や用途に合致する通信手段を確保しておくことが大切です。

医師や看護師、人工透析設備等の協力

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