2025.05.23 コラム

【MCA無線終了】多様化するリスクにどう対応するか?BCP対策の通信設計ガイド

MCA無線の終了と再設計の必要性

長年、災害時の通信手段として信頼されてきたMCA無線。しかし、その「MCAアドバンス」が2027年、「デジタルMCA」が2029年に終了を迎えることが発表され、MCA無線ユーザーは次なる対応を迫られています(出典:移動無線センター)。

かつてのように、MCAに頼るだけで安心できる時代ではありません。

地震や豪雨などの自然災害に加え、通信障害や停電などの“複合災害”が発生する現代において、従来型の通信設計では対応が困難になってきています。

重要なのは、単なる「代替機器」の導入ではなく、自社のリスクに即した“通信体制の再設計”です。複数キャリア対応、可搬性、現場運用性などを組み合わせた柔軟な構成が求められます。

本記事では、MCA無線サービス終了後の選択肢と、BCP対策における通信手段の確保をどう設計すべきかについて具体的な視点を提供します。

MCAに代わる手段を模索する今こそ、備えの根本から見直すきっかけにしていただけると幸いです。

BCP通信を取り巻く環境変化とMCA無線の役割

近年、日本はかつてない頻度と規模で災害に見舞われています。

豪雨による河川氾濫、巨大地震によるインフラ崩壊、さらには同時多発的に発生する通信障害や停電。こうした複合災害が現実となる中、BCP対策における通信の要件も大きく変わりつつあります。(参考:内閣府 防災白書

このような状況において、これまでMCA無線が果たしてきた役割は非常に大きなものでした。

災害時でも確実に繋がる無線網として、多くの自治体や企業が導入し、実際の災害現場でも高い信頼性を発揮してきました。特に公衆回線が混雑・途絶するような状況下においても、専用帯域で運用されるMCAは通信の最後の砦として機能していたのです。

しかし、前章で述べた通り、MCAアドバンスおよびデジタルMCAのサービス終了が迫っており、従来通りの運用を続けることは物理的に不可能になります。

一方で、通信技術そのものは急速に進化しています。公衆網によるIP無線機、ローカル5GやWi-Fiメッシュなどの専用ネットワーク、さらにはスターリンクに代表される衛星通信など、BCPで活用可能な選択肢は格段に広がりました。ただし、それらをどう選び、どう組み合わせ、どう設計するか。そこにこそ、これからのBCPにおける通信設計の本質があるといえるでしょう。

特に注目すべきは、BCP通信の役割そのものが拡大している点です。従来の「音声連絡」だけでなく、「画像共有」「位置情報の把握」「現場の状況報告」「チャットによる指示伝達」など、多様なコミュニケーション機能が求められるようになってきました。

通信は単なる手段ではなく、災害時における意思決定と現場行動の起点になりつつあるのです。

このような状況を踏まえれば、もはや「MCAの代替」という枠組みでは十分とは言えません。むしろ、これまでのMCA無線のメリットである「高信頼性・即時性・安定性」をどう引き継ぎ、さらにどのような機能を加えるかという、新たな通信設計の視点が必要です。

次章では、こうした変化を前提に、MCAユーザーが直面しやすい課題について具体的に掘り下げていきます。

設計視点の欠如がBCP対策における通信体制の弱点に

MCA無線の終了が迫る中、IP無線機や衛星電話といった新たな通信手段の導入を検討する企業は増えています。しかし、「どれがBCP対策に最適か分からない」と悩む担当者も多いのが実情です。

IP無線機は広域性と可搬性に優れ、マルチプロファイルSIMによるキャリアの冗長化も可能です。衛星電話は地上通信が断絶した際のバックアップ手段として有効です。ただし、これらは単体では不十分であり、複数の手段を組み合わせた「通信体制の設計」が必要です。

一方で、MCA無線のように「信頼できる単一手段」があった時代の延長で、機器だけを更新する企業も少なくありません。BCP通信の有効性は、導入後の運用設計や管理体制の整備によって大きく左右されるのです。

今後は「どれを選ぶか」ではなく、「どう設計するか」という視点で通信手段を再構築する必要があります。次章ではそのための具体的な構成例と比較観点を提示します。

BCP対策における通信体制の新設計に向けた選択肢

MCA無線のサービス終了を受け、多くの企業が「次に何を導入すべきか」に直面しています。しかし、前章で述べた通り、今求められているのは機器選定ではなく通信設計という発想です。本章では、BCP通信の再設計に有効な構成例と、その比較観点を提示します。

まず、有力な選択肢として注目されているのが「IP無線機 × マルチプロファイルSIM」の構成です。これは1台のIP無線機で複数キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど)に接続できるSIMカードを使用することで、1社のネットワークに障害が発生しても他のキャリア経由で通信を維持できるものです。これにより、冗長性と可搬性を両立した通信環境を構築できます。

次に、IP無線機と衛星電話を組み合わせた「IP無線機 × 衛星電話」の構成です。IP無線機で平常時の高頻度通信を担い、災害時にIP回線が途絶した場合には、衛星電話で最低限の連絡を確保します。このハイブリッド構成は「最後の通信手段を確保しておきたい」というニーズに対し、非常に有効です。

さらに注目すべきは、業務用IP無線システムiMESHを活用した柔軟な構成です。iMESHは、ハンディ型・車載型・スマートフォンアプリといった複数の端末形態を組み合わせることで、災害時や現場環境に応じたカスタマイズが可能です。

たとえば、主要拠点には可搬性に優れたハンディ型IP無線機を配備し、移動支援車両には車載型を、そして想定以上の端末が必要となった場合には、スマートフォンアプリによるスポット的な通信端末の拡張が行えます。

これらの方式を比較する際には、以下の観点が重要です。

  • 用途の適合性:どのような業務・状況で使うか(例:日常業務併用か、災害時専用か)

  • 設計の自由度:拠点数・移動体の多さ・通信範囲などに応じて柔軟に構成できるか

  • 運用管理のしやすさ:通信相手の管理、優先度設定、メンテナンス性など

たとえば、IP無線機は都市部の複数拠点間での運用や大人数での連携に強く、衛星電話は山間部や孤立エリア、少数での情報共有に強みがあります。IP無線機については業務用IP無線システムiMESHでこれらの構成を包括しつつ、現場状況や業務要件に応じて拡張性と柔軟性を高いレベルで両立できます。

通信手段の再設計において重要なのは、「一つの方式に依存しないこと」と「業務フローとの整合性をとること」です。導入・比較検討の際には、製品スペックだけでなく、実運用での適合性と継続性を視野に入れることが求められます。

次章では、こうした構成が実際にどう機能するのか想定シナリオをもとにいくつかパターンを解説します。

災害時に機能する通信体制とは

「BCP対策として通信手段を用意していたはずなのに、いざという時に使えなかった」。過去の災害を振り返ると、そうした課題が多くの企業・自治体で共有されています。一方で、通信体制を事前に設計しておくことで、有事の混乱を抑えられる可能性があります。

以下は、業務用IP無線システムiMESHを活用したBCP通信の設計イメージです。

◆活用イメージ:iMESHを中心とした多層的通信構成

たとえば沿岸部に複数拠点を持つ企業が、台風・停電・通信障害を想定して以下のような通信体制を構築するケースです。

  • 拠点に可搬性の高いハンディ型IP無線機を設置

  • 支援車両に車載型IP無線機を搭載

  • 想定以上の通信端末が必要な場面ではスマートフォンアプリで即時拡張できるマニュアルを整備

  • 通信断絶時のバックアップとして衛星電話を整備

このような構成であれば、メインの情報連携はiMESHのIP無線機通じた音声通話・画像連携・位置情報管理による情報共有を行い、IP網が一時的に使用できなくなった場合でも、衛星電話を利用した情報共有と指示伝達が継続できる設計です。アプリによる端末追加は、急な増員時の対応手段としても機能します。

◆通信設計がもたらす効果

この構成から得られる効果には次のようなものが考えられます。

  • 初動対応の迅速化:IP無線機によるリアルタイム通話での指示伝達

  • 指揮命令の明瞭化:役割別に通信グループを設定して情報の混乱を回避

  • 通信の継続性:停電やネットワーク障害下でも通信環境が維持される

業務用IP無線システムiMESHを中心に、IP無線機・アプリ・衛星電話(または衛星通信)を組み合わせた構成は、実際のBCP運用において機能しうる実践的な通信設計例といえるでしょう。

BCP対策における通信を「再設計」するために

本ホワイトペーパーでは、デジタルMCA、MCAアドバンスのサービス終了をきっかけに、BCP通信体制を「単なる代替」ではなく「再設計」という観点から見直す必要性について解説してきました。

複合災害が常態化する今、通信手段は単独で完結するものではなく、業務に沿った設計・運用の中でこそ真価を発揮します。

ここで改めて、BCP通信の再設計における4つの要素を整理します。

BCP通信再設計の4つの観点

  1. 複数経路の確保(冗長性)
     IP無線機+マルチプロファイルSIM、IP無線機+衛星電話といった構成で、通信途絶のリスクを最小限に。

  2. 管理性の高さ
     複数拠点・複数端末を想定した際の通信系統の整理、通信相手の制御、運用中の状況把握が行える仕組みか。

  3. 操作性・展開性
     現場の誰もが使いこなせる操作性に加え、スマートフォンアプリなどによる即時・柔軟な展開手段の有無。

  4. 可搬性と設計自由度
     ハンディ型・車載型・アプリなどを組み合わせ、自社の現場に適した構成が組める柔軟さ。

これらの観点を踏まえ、以下のチェックリストで自社の通信設計の現状を確認いただけます。

通信再設計 チェックリスト

  • 検討中のMCA無線の代替機器が単一手段に依存していないか

  • 通信手段が複数の経路を持ち、バックアップも明確か

  • 拠点や業務ごとの用途に応じた構成が可能か

  • 通信機器やアプリの操作性に不安はないか

  • 有事の運用を想定した指揮・管理の設計ができているか

まずは自社の状況整理から始めませんか?

BCP通信の再設計は、一度にすべてを完璧にする必要はありません。まずは自社のリスクと業務に適した選択肢を把握すること、次に試用・実証を通じて「使える通信体制」を確かめることが重要です。

私たちは、業務用IP無線システムiMESHをはじめとした多様な通信ソリューションに関する資料提供・試用相談・個別提案を行っています。ご関心がありましたら、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。